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ROICって結局、何のため?──経営判断の軸を作る“資本効率”の正体
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ROICって結局、何のため?──経営判断の軸を作る“資本効率”の正体

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はじめに:ちょっと立ち止まって考えてみませんか?

いきなりですが質問です。

「ROICって、なんのためにあると思いますか?」

──そう聞かれて、すぐに答えられる方は意外と少ないのではないでしょうか。

「資本効率を示す指標だから…?」「IR資料に必要だから…?」

もちろんどれも間違いではありません。

でも今、ROICがあらためて注目されているのは、単なる“財務の話”にとどまらない理由があります。

本記事では、ROICという経営指標の背景にある「今、なぜそれが重要なのか?」という本質に迫りながら、今日から使える実務的なヒントもご紹介していきます。

1. コーポレートガバナンス・コードの要請「資本コスト意識」

まず背景を見ていきましょう。

2015年に導入されたコーポレートガバナンス・コード(CGコード)をご存じでしょうか?

これは、日本企業の持続的な成長と企業価値の向上を目的に、東京証券取引所が策定した原則集です。
株主を含むステークホルダーとの適切な関係構築や、経営の透明性・効率性を高めることを求めています。

このコードでは、企業に対し「資本コストや株主利益を意識した経営」の実践が求められるようになりました。

さらに2021年の改訂では、より踏み込んだ内容として、

  • 「資本コストを明示し、その上回る収益性の確保」
  • 「経営戦略と資本政策の整合性ある説明」

が企業に求められるようになりました。

つまり、ROIC(投下資本利益率)は今や“数字を測る指標”ではなく、
“説明責任を果たすための共通言語”として位置づけられつつあるのです。

(出典:コーポレートガバナンス・コード「原則5-2」より)

2. ROEでは不十分? なぜROICなのか

ROE(自己資本利益率)は、これまで企業の収益性を語るうえで主力の指標でした。
しかしながら、ROEとROICでは視点が違います。

ROIC(投下資本利益率)が「投下資本全体に対してどれだけ利益を出せているか」を測るのに対し、
ROE(自己資本利益率)は「株主資本に対してどれだけ利益を出せているか」を表す指標です。

指標
対象資本
主な用途
ROIC有利子負債+株主資本企業全体の資本効率の評価
ROE株主資本のみ株主リターンの効率性の評価

経営視点での投資判断にはROIC、株主視点でのリターン評価にはROEを用いると明確な線引きができます。

ROICは、事業が投下資本に対してどれだけ利益を生んでいるかを示す“純粋な経営効率”の指標です。

この違いが、後述する「事業ポートフォリオの再編成」や「説明責任を求められる経営の現場」で、大きな意味を持つのです。

3. PBR1倍割れ問題が突きつけた、ROICの“現実”

2023年、日本取引所グループがPBR(株価純資産倍率)1倍割れの企業に改善要請を出したことは、記憶に新しいかもしれません。

「企業価値を上げるためには、ROICを高める必要がある」

そう頭ではわかっていても、なかなか動き出せない企業も多いのが実情です。

でも、ROICが資本コストを下回っている状態では、投資家に「将来に期待できる会社」とは見てもらえません。

ROICを意識することは、“株価をどうするか”だけでなく、“経営の筋肉をどう鍛えるか”という話なのです。

ちなみに、PBRは次のように分解されることがあります:

PBR = ROE × PER

つまり、資本効率(ROE)と市場からの期待(PER)の掛け合わせがPBRを構成するという見方です。ROICの改善は、ROEを通じてPBRにも影響する可能性があるのです。

4. ROICツリーで「どこから手をつけるか」が見えてくる

「ROICを改善しよう!」と号令をかけても、現場からすると「具体的に何をすればいいのか分からない…」となりがちです。

そこで役に立つのが、ROICを構成要素に分解していく「ROICツリー(逆ツリー)」という考え方です。

  • ROIC = NOPAT ÷ 投下資本
  • NOPAT(税引後営業利益) = 売上 × 営業利益率 ×(1−税率)
  • 投下資本 = 運転資本 + 固定資産

このように分解していくことで、営業利益率を上げるのか、在庫回転を見直すのか、「打ち手」の選択肢が明確になります。

実際にオムロンなどの先進企業では、ROICツリーをベースにKPIを組み合わせ、経営と現場を数値でつなぐ運用をしています。

5. ROICは“未来をつくる言葉”である

最後に、少しだけ抽象的な話を。

ROICは、未来の経営を考えるときの「共通言語」になり得ます。

財務、現場、戦略、IR──それぞれの立場の人が「この投資や施策はROICをどう変えるか?」という軸で会話できれば、意思決定のスピードと納得感は格段に上がります。

ROICは単なるスコアではなく、行動と戦略をつなぐ“翻訳装置”でもあると言えます。

まとめ:ROICは“目的”ではない、“経営の道しるべ”だ

ROICは目標ではありません。
それは「資本をどう使い、いかに価値を生むか?」を見極めるための経営の道しるべです。

これからROIC経営に取り組もうとする方も、すでに活用している方も、あらためて「ROICを使って、何を見極めたいのか?」を考えてみてはいかがでしょうか。

次の記事では、ROICと現場KPIをどう接続していくか「“ROICツリー×KPIツリー”」という実践的アプローチをご紹介します。

次の記事では、売上や利益といった最終目標(KGI)を達成するために、「どんな行動が必要か」を逆算して設計していく仕組み「KPIツリー」をご紹介します。

目標を“やり切れる形”に落とす──KPIツリーの構築法と注意点

伊藤 実紗

メーカー営業から出産を経てフリーランスに転身。 ライティング・編集・校正業に携わる。 2025年にマーケ担当としてプロフィナンスにジョイン。

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