0. はじめに:戦略が“伝わらない”理由とは?
「ROICを高めるための戦略は決めたけど、現場が動かない」
──そんな悩み、経営者や事業責任者であれば一度は感じたことがあるのではないでしょうか。
その背景には、経営戦略と現場の業務が“数字”で接続されていないという構造的な問題があります。
近年では、コーポレートガバナンス・コード(CGコード)の改訂により、企業に対して「資本コストを意識した経営」が強く求められるようになりました。
特に2021年の改訂では、事業ポートフォリオ管理の強化とともに、資本コストと収益性(=ROIC)の整合が強調されています。
こうした背景を踏まえると、ROICは単なる経営指標ではなく、「経営者が説明責任を果たすための共通言語」としての役割を帯びつつあるのです。
本記事では、ROICツリーとKPIツリーを接続する“統合モデル”を用いて、経営の意思決定と現場のアクションを一本の線でつなぐための考え方と設計方法を解説します。
1. なぜROICツリーとKPIツリーを接続する必要があるのか?
ROICは、経営資源の効率的な活用を測る財務指標。
KPIは、日々の行動を定量化する現場指標。
どちらも重要ですが、これらが“つながっていない”ことで次のような問題が起きがちです。
- 戦略を策定しても、現場で何をすべきかが分からない
- 現場の数値が、経営にどう貢献しているかが見えない
つまり、経営と現場の視座・視点が分断されているのです。
ROICツリーとKPIツリーを接続することで、戦略から日々のアクションまでの“数値の道筋”が通り、経営と実行のズレを防ぐことができます。
2. 統合モデルの全体像
ROICツリーとKPIツリーを統合することで、以下のような構造が生まれます。
- ROICの要素分解(利益率、回転率など)を起点にKGIを設定
- 各KGIを支えるKPIを行動レベルまで分解
- KPIとその担当(担当部署・担当者)を結びつけて運用設計
例:
- ROIC = NOPAT(税引後営業利益) / 投下資本(有利子負債+株主資本)
- NOPAT = 売上 × 営業利益率 ×(1−税率)
- 営業利益率 = 顧客単価 × 成約率 × 販売コスト率 など
この式の中に、具体的な営業活動や商品改善といった“現場の行動”が紐づけられます。
3. 接続のステップ:KPIを“ROICドライバー”に紐づける
このプロセスは、元記事でも紹介されている「構造的アプローチ」と同じ思想に基づいています。
ステップ1:ROICの改善対象を特定する
自社のROICツリーを確認し、どの指標がボトルネックかを見極めます。
(例:営業利益率が低い、在庫回転率が低い、など)
ステップ2:該当指標に対してKGIを設定する
改善すべき指標に対し、部門単位・事業単位でKGIを置きます。
(例:「粗利率を◯%以上にする」など)
ステップ3:KGI達成のためのKPIを分解
KGIを因数分解し、行動に落とし込めるKPIを設計します。
(例:平均受注単価、原価率、営業回数 など)
ステップ4:KPIに担当チーム・個人をアサイン
誰がどの数値を責任持って追うのかまでを設計します。
4. 実務上のポイントと注意点
数値のつながりを可視化することが最優先
→ KPIとROICの因果が不明瞭だと、形骸化リスクが高まります計測可能なKPIに絞り込むこと
→ 測定できない指標ではPDCAが回りませんKPIが“やればできる”水準であること
→ 高すぎても低すぎても、実行力を損ないます
5. 統合モデルがもたらす効果
- 経営と現場の会話が“数字”で成立する
- 「どのKPIがROICに貢献しているか」が定量的に把握できる
- 投資家説明や全社戦略会議での納得感が高まる
6. まとめ:数値でつながる組織は、戦略に強い
ROICとKPIという“異なるレイヤーの指標”を一本の構造でつなぐことで、組織全体の戦略遂行力が飛躍的に向上します。
次回は、これを支えるFP&A(経営企画/事業管理)体制について解説していきます。

メーカー営業から出産を経てフリーランスに転身。 ライティング・編集・校正業に携わる。 2025年にマーケ担当としてプロフィナンスにジョイン。