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戦略と現場をつなぐ要──FP&Aチームの役割と体制づくり
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戦略と現場をつなぐ要──FP&Aチームの役割と体制づくり

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0. はじめに:戦略と実行の“翻訳者”は誰か?

ROICやKPIを使って、数値で戦略と現場をつなぐ。
ここまでの記事で、その重要性についてお伝えしてきました。


  1. ROICという経営指標の本質と活用方法
    ROICって結局、何のため?──経営判断の軸を作る“資本効率”の正体

  2. KPIツリーの構築法と注意点
    目標を“やり切れる形”に落とす──KPIツリーの構築法と注意点

  3. ROICツリー×KPIツリーの統合モデル
    戦略と現場を数値でつなぐ──ROICツリー×KPIツリーの構造化モデルとは?


では、その接続を社内で担うのは誰なのか?

答えは、FP&A(Financial Planning & Analysis)チームです。

「戦略と数字」「経営と現場」その両方を理解し、構造的に接続する機能が、まさにFP&Aの役割なのです。


1. FP&A(Financial Planning & Analysis)は“集計係”ではない

日本企業では、FP&Aの業務が「予算集計」「レポート作成」にとどまっているケースも多く見られます。

しかし、FP&A本来の役割はそれだけではありません。

  • 事業のKPI構造を理解する
  • 経営と現場の数値をつなぐ
  • 打ち手の設計にまで関与する

FP&Aは、“数値に強いビジネスパートナー”として、経営を支える存在であるべきなのです。


2. FP&Aに求められるスキルセット

FP&Aは「経営と現場の翻訳者」とも言える存在です。

その役割を果たすには、単なる数字の理解だけでなく、戦略の構造や現場感覚への深い理解が求められます。

その中で以下のようなスキルが求められます。

■ 財務会計・管理会計の知見

ROICやWACC、PL/BSの読み解きといった財務知識は、FP&Aの基本言語です。
特に、ROICを構成する「営業利益率」や「投下資本」などの要素を正確に分解・評価するには、

  • 管理会計(部門別損益、変動費・固定費の分離)
  • 財務会計(減価償却、負債と資本の違い)

など、両者の知識を横断的に活用できる力が求められます。

■ 構造的思考と因数分解スキル

たとえば「利益が落ちた」場合に、「営業活動に原因があるのか?」「製造原価に問題があるのか?」など、
数字の結果から因果関係をさかのぼり、要素を分解する力が不可欠です。
このスキルはKPIツリーの設計や施策効果の測定にも直結しており、施策と財務インパクトを“線でつなぐ”ために必要な能力です。

■ 現場とのコミュニケーション能力

FP&Aは、事業部門との信頼関係がなければ機能しません。

  • 現場が実行できるKPIを一緒に設計する
  • 事業部の施策に対して財務視点でアドバイスする
  • 定量と定性のギャップを埋める“翻訳者”となる

といった役割が期待されます。

「会議に同席するだけ」「数字をもらうだけ」ではなく、現場とともに数字をつくる姿勢が重要です。


3. なぜFP&Aが「翻訳者」になるのか?

多くの企業では、経営企画と事業部が違う言語を話しています。

  • 経営企画は「売上高総利益率」「販管費率」などの財務指標を重視
  • 事業部は「アポ獲得数」「CVR」「平均受注単価」などの非財務指標で現場を見ている

ここにズレがある限り、戦略は現場に届きません。

FP&Aはこのギャップを埋め、財務と非財務をつなぐ共通言語=KPIツリーを作ることで、組織の解像度を高める存在です。


4. 体制づくりのポイント

■ FP&Aは“現場に近い立ち位置”をとる

経営企画や経理と一体化していては、現場の温度感が掴めません。事業部との距離感がカギです。

■ 各事業に“専属FP&A”をアサインする

特に複数事業を抱える企業では、事業ごとに専任のFP&Aがいると、KPI設計と運用が回りやすくなります。

■ KPIツリー設計のリードを担う

理想的には、KPIツリーをFP&Aが先導し、事業部とともに設計していくことが望ましいでしょう。


5. 組織に“再現性”をつくる仕組みとして

FP&Aは、単なる分析担当ではありません。

「なぜ売上が上がったのか?」「なぜ利益が下がったのか?」

その問いに対して、構造的に・定量的に説明できる仕組みをつくるのが、FP&Aの使命です。

再現性ある経営のために、ナレッジとして残る分析を蓄積していくこと。
それこそが、事業ポートフォリオ経営を支える土台となります。


6. まとめ:FP&Aは、経営と現場の「橋渡し役」

ROICという「戦略の言語」と、KPIという「現場の言語」。
その両方を理解し、翻訳し、橋渡しする。

その役割を担うのが、FP&Aです。

経営が語る戦略と、現場が見る数字。その分断をなくすことで、
組織はようやく、“再現性ある成果”を出せるようになるのです。

次回は、この仕組みをどのように事業計画と連動させるか、
「KPIを基盤とした事業計画設計」について解説します。

数字は“作ったあと”が勝負──事業計画のアップデート法

伊藤 実紗

メーカー営業から出産を経てフリーランスに転身。 ライティング・編集・校正業に携わる。 2025年にマーケ担当としてプロフィナンスにジョイン。

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