企業の経営を効率化し、戦略的な意思決定を支援するためには、管理会計が重要です。
特に近年では、従来のExcelやスプレッドシートを使用した手法から、クラウドベースのSaaS(Software as a Service)ツールへの移行が進んでいます。
本記事では、管理会計の基本概念とその重要性、さらにExcelからSaaSへの移行のメリットとデメリットを解説し、企業に最適な管理会計SaaSツールを10選ご紹介します。
これにより、企業が最適なツールを選び、効果的な管理会計を実現する手助けとなるでしょう。
管理会計とは
管理会計の定義
管理会計とは、企業の内部で使用される財務情報を提供し、経営者やマネージャーが戦略的な意思決定を行うためのサポートをする手法です。
財務会計が外部ステークホルダー向けに過去の財務状況を報告するのに対し、管理会計は主に未来志向で、企業内部の経営資源を最適に活用するための計画・統制・分析を行います。
具体的には、予算編成、コスト管理、業績評価、事業計画のシミュレーションなどが含まれます。
管理会計の重要性
管理会計は、企業が競争力を維持し、持続的に成長するために不可欠です。以下の点で重要な役割を果たします:
- 経営戦略の策定と実行:管理会計は、企業の戦略を策定するために必要な情報を提供します。例えば、新規事業の立ち上げや市場拡大の際に、投資のリスクとリターンをシミュレーションし、最適な戦略を立案する助けとなります。
- パフォーマンスの評価:各部門やプロジェクトのパフォーマンスを定量的に評価するための指標を提供します。これにより、経営者はどの部門が効率的に資源を活用しているかを把握し、必要に応じて改善策を講じることができます。
- コスト管理と効率化:コストの分析と管理を通じて、無駄を削減し、企業全体の効率を向上させます。例えば、製造業では製品ごとのコストを詳細に分析し、コスト削減のための具体的な施策を導き出します。
- 意思決定の支援:日常的な経営判断から長期的な戦略決定まで、あらゆるレベルの意思決定を支援します。財務データを基にしたシナリオ分析や、異なる選択肢の比較検討を行うことで、最適な選択を行うことができます。
管理会計の具体的な手法とツール
管理会計にはさまざまな手法とツールが存在します。その中でも特に重要なのが以下のものです:
- 予算編成と管理:企業全体や各部門の予算を作成し、実際の業績と比較して差異を分析します。これにより、予算の適切性を評価し、必要に応じて修正を行います。
- コスト計算:各製品やサービスのコストを詳細に計算し、価格設定や利益率の分析に役立てます。直接材料費、労務費、製造間接費などを含むコスト構造を明確にします。
- 業績管理:KPI(主要業績指標)を設定し、定期的に業績をモニタリングします。これにより、戦略の実行状況を評価し、必要に応じて戦略の見直しを行います。
- シナリオ分析とシミュレーション:将来の複数のシナリオをシミュレートし、それぞれのシナリオ下での業績を予測します。これにより、不確実な環境下でも柔軟な対応が可能となります。
管理会計の進化とSaaSの役割
従来、管理会計はExcelや紙ベースで行われることが多かったですが、これらの手法はデータの一貫性や正確性に課題があります。近年、クラウドベースの管理会計SaaS(Software as a Service)の登場により、これらの課題が解消されつつあります。管理会計SaaSは、リアルタイムでのデータ更新、複数ユーザー間での情報共有、自動化された分析機能を提供し、企業の意思決定をより迅速かつ正確にサポートします。
管理会計をExcelやスプレッドシートから脱却するメリットとデメリット
Excelやスプレッドシートのメリットとデメリット
管理会計において、Excelやスプレッドシートは長い間、最も一般的なツールとして使用されてきました。その主なメリットは以下の通りです:
- コスト面:Excelは多くの企業で既に導入されており、追加のソフトウェアコストがかかりません。多くの場合、既存のMicrosoft Officeライセンスに含まれているため、導入コストが非常に低いです。
- 使いやすさ:多くの従業員が日常的に使用しているため、追加の学習コストがほとんど必要ありません。なので、新しいツールを導入する際の教育コストや時間がかからないという利点があります。
- 柔軟性:Excelは柔軟なデータ操作が可能で、カスタムマクロやスクリプトを利用して特定のニーズに合わせた分析を行うことができます。
しかし、Excelやスプレッドシートにはいくつかのデメリットもあります:
- データの一貫性の問題:複数のユーザーが同じファイルを使用する場合、データの一貫性を保つのが難しいです。異なるバージョンのファイルが作成されることが多く、最新のデータを把握するのが困難です。
- エラーのリスク:手動入力や複雑な数式に依存するため、ヒューマンエラーが発生しやすいです。小さなミスが大きな誤差を生む可能性があり、信頼性に欠けます。
- データ管理の効率性:大量のデータを扱う場合、Excelは処理速度やパフォーマンスに限界があります。また、データの可視化や分析の自動化が難しいため、時間と労力がかかります。
管理会計SaaSへの移行のメリット
クラウドベースの管理会計SaaS(Software as a Service)ツールは、これらの課題を解決するための強力なソリューションを提供します。以下は管理会計SaaSへの移行の主なメリットです:
- リアルタイムデータの利用:データがリアルタイムで更新され、複数のユーザーが同時にアクセス可能です。これにより、常に最新のデータを基にした意思決定が行えます。
- データの一貫性:クラウド環境でデータが一元管理されるため、データの一貫性が保たれます。バージョン管理の問題が解消され、信頼性の高いデータを使用できます。
- 効率化と自動化:データの入力や分析のプロセスが自動化され、ヒューマンエラーのリスクが減少します。これにより、分析にかかる時間と労力を大幅に削減できます。
- セキュリティの向上:クラウドベースのツールは、高度なセキュリティ機能を備えており、データの保護が強化されています。データのバックアップも自動的に行われるため、情報の損失リスクが低減します。
- スケーラビリティ:企業の成長に合わせて簡単にスケールアップが可能です。追加のリソースや機能を迅速に利用でき、ビジネスの変化に柔軟に対応できます。
管理会計SaaSへの移行のデメリット
一方で、管理会計SaaSへの移行にはいくつかのデメリットも考慮する必要があります:
- コスト:SaaSツールはサブスクリプションベースで料金が発生するため、長期的なコストがかかります。特に中小企業にとっては、初期費用と運用コストが負担になることがあります。
- 導入時のハードル:新しいツールの導入には、初期設定や従業員のトレーニングが必要です。これには時間とリソースがかかり、短期的には生産性が低下する可能性があります。
- 既存システムとの互換性:既存のシステムやデータベースと統合する際に、互換性の問題が発生することがあります。移行プロセスが複雑である場合、追加のカスタマイズやサポートが必要になることもあります。
管理会計SaaSへの移行は、企業の規模やニーズに応じて慎重に検討する必要があります。メリットとデメリットを理解し、最適な選択を行うことで、管理会計の効率性と正確性を向上させることができます。
管理会計SaaSおすすめ10選
管理会計の効率化と精度向上を目指す企業にとって、SaaS(Software as a Service)ツールの導入は有力な選択肢です。以下に、特におすすめの10つの管理会計SaaSツールを紹介します。
Vividir
- 主要機能: 事業計画のシミュレーション、予算編成、予実管理、財務三表の作成
- 特徴: Vividirは、事業計画のシミュレーションに特化したツールで、直感的な操作性と高度な分析機能を備えています。企業の未来をシミュレートし、戦略的な意思決定を支援します。また、複数のシナリオを比較することで、最適な経営戦略を策定する手助けとなります。
- サービスサイト:https://vividir.io/
Loglass
- 主要機能: 予実管理、プロジェクト管理、データ集計
- 特徴: Loglassは、既存のExcelやスプレッドシートを取り込んだ上で、Webサービス上で集計することが可能です。既存の業務フローを大きく崩さない形で高度な予実管理ができるため、導入がスムーズで、学習コストも低く抑えられます。また、クラウド上でのデータ共有が可能で、リアルタイムのデータ更新にも対応しています。
- サービスサイト:https://www.loglass.jp/
Manageboard
主要機能: 予実管理、KPIマネジメント、データ集計
特徴: Manageboardは、Excelやスプレッドシートを取り込む形で予算作成を行い、Webサービス上で多機能なダッシュボードを提供します。視覚的にKPIや予算を管理でき、リアルタイムでのデータ分析が可能です。サービスが財務三表に対応しているほか、会計事務所とも連携しているため、財務会計に特に強いです。
https://service.manageboard.jp/
DIGGLE
主要機能: 事業計画のシミュレーション、KPIマネジメント、予実管理、予算作成
予実管理
特徴: DIGGLEはExcelやスプレッドシートで作成した予算を取り込んだり、Webサービス上で予算作成を行うことができます。また予実管理をダッシュボードにて行えることで、複数人で事業管理を行うことに有効です。使いやすいインターフェースと高度な解析機能を備えており、企業の戦略的計画作成に役立ちます。
https://diggle.jp/
クロテン
主要機能: 予実管理、データ集計
特徴: クロテンは、管理会計と財務会計の連動に強みを持つツールです。どこからでもアクセスでき、リアルタイムでのデータ更新が可能です。データ集計なども可能で、BIツールとしても一部利用可能です。クロテン上でスプレッドシートを開いて使うUIらしく、操作・コメントなども同様に行うことができるようです。
https://kuroten.biz/
Zaimo
主要機能: 事業シミュレーション、予算作成
特徴: Zaimoは、シンプルなインターフェースで使いやすい事業計画作成ツールです。Excelを使わずにデータの入力が直感的に行えるため、導入後すぐに効果を実感できます。予実管理の機能は提供しておらず、計画作成に特化しています。今回紹介している中では最も安価なサービスになります。
https://lp.zaimo.ai/
PlanGuru
主要機能: 事業計画のシミュレーション、予算編成、予実管理、財務三表の作成
特徴: PlanGuruは過去5年の実績インポート機能に始まり、最大10年の予算作成を行うことが可能です。Excelやスプレッドシートを使わずに事業計画の作成ができ、その後の予実管理まで行うこともできます。
https://www.planguru.com/
Anaplan
主要機能: 事業計画のシミュレーション、予算編成、予実管理、財務三表の作成
特徴: Anaplanは、特に大企業に強い管理会計ツールです。リアルタイムでのデータ分析とシミュレーションが可能で、複雑なビジネスシナリオにも対応します。高度な計画機能を持ち、グローバル規模での業務管理が可能です。財務三表の作成まで対応できますが、予実管理の分野に最も強みを持ちます。高度なサービスである分、利用者にリテラシーが求められるのもこのツールの特徴です。
https://www.anaplan.com/jp/
LivePlan
主要機能: 事業計画のシミュレーション、予算編成、財務三表の作成
特徴: LivePlanは事業計画作成に特化したツールで、Excelやスプレッドシートを使わずに事業計画を作成できます。特に資金調達に向けて財務諸表を作る際に向いており、起業家やスモールビジネスのオーナーに使いやすい価格帯になっています。
https://www.liveplan.com/
Scale Cloud
主要機能: KPIマネジメント、予実管理、予算編成 特徴: Scale Cloudはキービジュアルからも分かるとおり、KPI管理とPL管理に強いです。事業計画の作成もサービス上で行うことができますし、自分で関数を作成することができるので、カスタマイズ性も高いです。 またダッシュボード作成の柔軟性も高く、KPI管理やPL管理を強化したい企業様におすすめです。 一方で、BSやCFは非対応と聞いたので、財務三表全てを把握したい場合は要注意です。 https://scalecloud.jp/
これらの管理会計SaaSツールは、それぞれに特徴と強みがあります。企業の規模やニーズに合わせて最適なツールを選び、管理会計の効率化と精度向上を図りましょう。
まとめ
管理会計SaaSツールには、それぞれ独自の特長と強みがあります。以下に各ツールの特長をまとめます:
事業計画を作成するにあたり、以下のような課題を感じる場合はExcelやスプレッドシートを使わないツールを検討すると良いでしょう。
- 関数ミスによる事業計画作成のエラーをなくしたい
- 最新の事業計画がわからなくなるなど、事業計画の管理自体に工数がかかっている
- 事業計画づくりが職人芸になっており、できる人間が限られている。またはできる人間が退職し、途方に暮れている
- 事業計画の作成を通してPLは見ることができるが、本当はBSやCFの動きもちゃんと確認したい
- 事業シミュレーションの頻度が高く、毎回の事業計画づくりに時間とコストがかかっている
一方で、以下のような制約条件が加わる場合は、Excelやスプレッドシートも織り交ぜた運用を考える必要があります。
- ステークホルダーが多すぎるため調整工数が膨らみ、Excelやスプレッドシートから脱却することの優先順位が上がらない
- 少人数の組織かつ誰でも事業計画作成・読み解きができるスキルやマインドがあり、Excelやスプレッドシートの運用で回っている
これらの場合はExcelやスプレッドシートを使わない管理会計ツールの導入に時間がかかるため、そもそも導入すべきか?導入すべき場合はどういったタイムラインで行うべきか?あたりを考慮する必要があります。
加えて、企業が最適な管理会計SaaSツールを選ぶ際には、以下のようなポイントも考慮しましょう。
- 企業規模:
- 小規模企業の場合、コスト効率の高いツール(例えば、PlanGuruやLivePlan)が適しています。
- 大企業の場合、より高度な機能とスケーラビリティを提供するツール(例えば、Anaplan、Vividir、Loglass)が必要です。
- ニーズ:
- KPIマネジメントが主な目的であれば、ManageboardやScale Cloudが適しています。
- 事業計画のシミュレーションが必要な場合、VividirやPlanGuruが有力です。
- 予実管理が主な目的の場合、LoglassやAnaplanが有力です。
- 予算:
- アカウント数やその他オプション機能によって金額が変わるため、各社要確認です。
- 初期費用が別途発生するケースが大半なので、月額料金と初期費用をそれぞれ確認しましょう。
- 導入の容易さ:
- Excelやスプレッドシートをベースに事業計画を作成できる方が組織体制やオペレーションを大きく変えずに済むケースがあります。LoglassやManageboard、Diggleが有力です。
- ユーザーインターフェースが直感的で、従業員のトレーニングが最小限で済むツールを選ぶことも重要です。VividirやScaleCloudが有力です。
- 機能の幅広さ:
- 要件を固めきれずあとからいろんな機能を求めたくなる可能性がある場合、複数の機能を持つツール(例えば、VividirやAnaplan)を選ぶとよいでしょう。
- リリース頻度を含む開発体制:
- SaaSである以上、どれだけの開発リソースが充実しているかによって、今後の利用満足度が大きく異なります。
- できるだけリリース頻度が高く、有用な機能を追加できているのかを確認しましょう。リリースノートがあるサービスは、リリースノートを確認するのが早いです。
自社の規模やニーズ、予算に応じた最適な管理会計SaaSツールを選び、効果的に活用することで、企業の経営効率を大幅に向上させることができます。 本記事を通してツール導入につながり、事業計画のお悩み解消に繋がりますと幸いです。

プロフィナンスCOO ex-Bizreachプロダクト責任者,Livesense。プロダクトマネジメント・データ分析・事業管理の話が大好物です。好きな食べ物は鶏のタタキと小エビのカクテルサラダ。93年生まれ。