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考察方法論

新規事業でフレームワークは使えるのか

森勝 遼太郎
森勝 遼太郎
CPO
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リーンキャンバスを全部埋めた。3CもSWOTも一通りやった。それなのに、次に何をすべきかが分からない。新規事業の検討では、このケースはよく起こります。

会議で埋まったキャンバスを映しても、返ってくる反応は「よくまとまっているね」までです。進むとも止めるとも決まらないまま、次の定例がやってきます。

こうなると、「フレームワークは使えないのではないか」という疑いが浮かんでくると思います。本コラムの答えは、使い方次第です。検証したい仮説を先に持ち、その検証方法を考えるタイミングで、使えるフレームワークがないかを探す。この使い方なら役に立ちます。仮説そのものを作るためのフレームワークもあるという話まで含めて、順に書いていきます。

フレームワークとは何か

そもそもフレームワークとは何なのでしょうか。

リーンキャンバスのマスには「顧客は誰か」「課題は何か」という観点が並んでいます。SWOTなら強み・弱み・機会・脅威の4象限、3Cなら市場・競合・自社の3方向です。どれも、先人たちが「新規事業を検討するなら、ここは見ておくべきだ」と学んできた観点の一覧といえます。

つまりフレームワークとは、「何を考える必要があるか」を考える手間を短縮してくれるものです。ゼロから観点を洗い出す時間を省いてくれる。それ以上でも、それ以下でもありません。

とりあえず埋めても、「So what?」で終わる

では、なぜ使っているのに効果につながらないと感じるのでしょうか。使い方を見ると、理由が分かります。

フレームワークがあるから、とりあえずそれをやってみる。とりあえずマスを埋めてみる。率直に言って、この使い方は無意味です。特に、問いも仮説もない状態でSWOT分析をやると、強みと弱みの一覧はできあがりますが、眺めた先に待っているのは「So what?」です。

フレームワークには「空欄」という見た目の完了条件があります。確かめたいことも、作りたい仮説もないまま開くと、埋め終わること自体がゴールにすり替わります。これは使う人の理解不足ではなく、道具の構造が生む現象です。

埋まったキャンバスには、どの観点に答えが出ていて、どれがまだ思いつきのままかが写りません。全部のマスが薄く埋まり、どれひとつ確かめられていない状態ができあがります。冒頭の「次に何をすべきか分からない」は、こうして起こります。

仮説があってから、検証の道具として使う

順番を変えます。先に検証したい仮説を持ち、その検証方法を考えるタイミングで、使えるフレームワークがないかを探す。 この順番なら、同じ道具が効きはじめます。

具体例で書きます。「この事業の競争優位性は、チームの技術力の高さではないか」という仮説を持っているとします。この仮説を確かめる道具としてSWOT分析をやってみると、技術力以外の強みや見落としていた脅威も洗い出せて、仮説そのものを立て直せることがあります。技術力に顧客基盤を掛け合わせたものが優位性なのではないか、というように、仮説が一段確かになります。

このときのSWOTは、埋める対象ではありません。仮説を検証し、立て直すための道具です。何を考えるべきかを一覧で示してくれるぶん、ゼロから考えるより効率よく進められる可能性があります。

ただし、検証の道具としても万能ではありません。書く人のバイアスはかかります。自社の強みは希望的に書いてしまいがちですし、都合の悪い脅威は小さく見積もられます。規制の動向や技術トレンドのような外部環境の変化も、SWOTの4象限だけでは書き出しにくいところです。3CやPESTなど別のフレームワークで別の軸を入れる手もありますが、必要な観点を完全に出してくれる道具はない、と思っておくほうが実態に合います。そもそもフレームワークに「なぞれば成功する手順」を期待できないことは、新規事業に「成功の型」はあるのかに書きました。

さらに言えば、「フレームワークを使わなきゃ」と考えること自体が回り道になる場面もあります。競争優位性の話なら、「この事業の主軸になりそうなものは何か」を自分たちで考え、「他にはなさそうか」を調べてみる。フレームワークを介さない素直な手立てで足りることは、実務では案外多いものです。どのフレームワークを使うかの選定に時間をかけるより、仮説と向き合う時間を増やすほうが先に進みます。

仮説を「作る」ためのフレームワークもある

ここまで、仮説が先だと書いてきました。すると、その仮説はどこから来るのか、という疑問が残ると思います。何から考えればよいか分からない。特に新規事業がはじめてのうちは、そういう時期があります。

実は、この段階に向けて設計されたフレームワークもあります。問いや仮説を作ること自体を目的にした道具です。

デザイン思考で使われるHow Might We(ハウ・マイト・ウィー)は、課題を「私たちはどうすれば〜できるか」という問いの形に開いて、発想を広げるための手法です。P&Gの社内実践から生まれ、IDEOが採用して広まったもので、正解をひとつに絞る前に、検討に値する問いをたくさん作るために使われます。

リーンキャンバスも、原典の『Running Lean』(アッシュ・マウリャ)では、事業プランの最初の姿を仮説の一覧として1枚に書き出し、いちばん危うい仮説から検証していくための道具として説明されています。マスを埋める行為そのものに、「これから検証する仮説を作って並べる」という目的が織り込まれていたわけです。論点を枝分かれで書き出して、確かめるべき問いを絞り込むイシューツリーも、同じ側の道具といえます。

こうして見ると、フレームワークの使い途は2つあることになります。観点の一覧で、仮説を確かめる手間を短縮してくれる検証向きの道具。問いを開いて、仮説そのものを作る仮説作り向きの道具。どちらを選ぶにも、「いま自分たちは仮説を作りたいのか、確かめたいのか」が先に決まっている必要があります。

冒頭の「とりあえず埋める」が空回りするのは、道具が悪いからではありませんでした。作りたいのか確かめたいのかが決まっておらず、目的の欄が空白のまま、道具だけが先に来ているからです。

フレームワークの2つの使い途と、目的がないまま埋める使い方の対比図。検証したい仮説があるときは検証の道具として使うと仮説を立て直せて次の検証が決まる。仮説を作りたいときはHow Might Weのような問いを開く道具を使うと検証したい仮説ができる。したいことが決まっていないままとりあえず開くと、全マスが埋まっても「So what?」で終わる

まず、手持ちの仮説を検証にかけてみる

最後に、どこから始めるかです。本コラムのおすすめは、いちばん確かめたい仮説をひとつ選び、フレームワークで検証にかけてみることです。

仮説といっても、立派なものである必要はありません。「この事業の強みは技術力ではないか」「この課題にいちばん困っているのは◯◯業界ではないか」。企画を進めていれば、この程度の当たりは必ず持っているはずです。それを言葉にして、SWOTなり3Cなりで一度確かめてみる。仮説が立て直されれば前進ですし、変わらなければ確からしさが一段上がっています。どちらに転んでも、次の検証が決まります。

試すコストは、以前よりずっと下がっています。文脈を読み込んだAIは、フレームワークを覚えることも回すことも楽にしてくれます。何十というフレームワークの名前と使い方を暗記しておく必要はもうありませんし、事業や企画の説明を渡して分析を頼めば、たたき台はすぐ出てきます。自分でやる前にAIに一度出させてみて、「こうやるのか」と分析そのものを体得していく使い方もできます。

確かめたい仮説さえ持っていれば、AIの出す分析も、埋まったキャンバスも、次の判断につながる材料になります。仮説を立て、成立条件に分解し、検証する。この本体の手順は、ハンドブックの事業開発の進め方すべての根本となるスキルに落とし込んであります。まずは手持ちの仮説をひとつ、道具にかけてみてください。

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