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新規事業に「成功の型」はあるのか

森勝 遼太郎
森勝 遼太郎
CPO
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目次

新規事業の世界には、「成功の型」をうたう言葉があふれています。成功する新規事業の共通点、失敗しないための鉄則、事業開発の必勝メソッド。書籍にも研修にもコンサルティングにも並んでいます。

私たちも壁打ちの場で、「結局のところ、成功の型はあるんですか」と聞かれることがあります。これだけ語られているのだから、どこかに本物があるのではないか。そう思うのは自然なことです。

タイトルの問いに対する本コラムの答えは、「ない」です。ただし、あふれている方法論が無価値だ、という話でもありません。そう考える理由をひとつの思考実験でたどり、出回っている「型」の正体は何なのか、型がないなら何を考えればよいのかまで、順に書いていきます。

もし成功の型があるなら

ここでいう「成功の型」とは、この順番でこれをやれば成功する、と手順として書き下せるものを指します。

手順として書けるなら、コピーできます。書籍に載せられますし、研修で教えられますし、コンサルティングとして売ることもできます。実際、リーンスタートアップにデザイン思考、ステージゲートと、新規事業の方法論はこの何十年、大量に出版され、共有されてきました。学ぼうと思えば誰でも学べる状態が、もう長く続いています。

そこで、反事実思考をしてみます(「もし〜だったら」の世界を想像する思考法です)。もし成功の型が本当に存在するなら、世界はどうなっているはずでしょうか。

型はコピーできるので、見つかった瞬間から広まります。広まれば、型を手にした企業から順に成功し、新規事業の失敗は年々減っていくはずです。後発ほど型を学んでから参入できるのですから、時間が経つほど成功はありふれたものになっていきます。

そしてもうひとつ。成功している企業とそうでない企業を分けるものは、「型を知っているかどうか」になります。マニュアルを持ち、ノウハウを学んだ企業が成功し、まだ知らない企業だけが失敗する。差は、知識の有無に出るはずです。

もっとも、この想像上の世界には、そもそも無理があります。市場には消費の総量があり、流通する金額には限りがあるからです。シェアという概念が存在する以上、同じ手順をなぞった全員が成功することは、論理的にあり得ません。当たり前の話ですが、「なぞれば誰でも成功にたどり着ける手順」は、この時点ですでに原理から否定されていることになります。

現実はそうなっていない

原理の話はここまでにして、現実のデータとも突き合わせます。PwCコンサルティングの『新規事業開発の取り組みに関する実態調査2025』は、新規事業に取り組む日本企業1,032社を調べた大規模な調査です。

先に断っておくと、失敗の割合が年々どう変わってきたかを同じ物差しで追い続けた公開調査は、探した範囲では見つけられませんでした。そこで、方法論が出回りきったあとの直近の断面で考えます。

結果は、投資回収フェーズ以降に到達した案件を持つ企業(調査のいう「成功企業」)が全体の21%にとどまり、主力事業化まで至った企業は1割に満たないというものでした。方法論がこれだけ流通したあとの数字です。型が広まるほど失敗は減っていくはず、という想定どおりには、現実はなっていません。

知識の有無で分かれた形跡も見当たりません。取り組む新規事業を5つに分類して成功企業と挑戦企業(残りの79%)を比べると、5分類中4つで差は0.4〜3.4ポイント。うち2つはむしろ挑戦企業のほうが高い側で、唯一の例外は海外展開の5.6ポイント差です。レポート自身も、案件の内容や推進のしかたで成功率を高める動きに両者の大差はないと総括しています。マニュアルやノウハウの有無が成否を分けているなら、両者のやっていることがここまで似通うことはないはずです。

「型は知られているが、実行が難しいのだ」という反論はありえます。ただ、実行できるかどうかが各社の事情に左右されるのだとしたら、それはもう「なぞれば成功する手順」とは呼べません。

もちろん、まだ誰にも見つかっていない型がどこかに眠っている可能性は、論理的には残ります。とはいえ、これだけ多くの企業が何十年も探して見つからなかったものを、自社が最初に掘り当てる前提で計画を立てるのは、賭けとして分が悪すぎます。実務上は「成功の型はない」と置くのが合理的だと考えています。

なお、この調査の全体像(成功率のファネルや成功企業の特徴、調査の限界)は、PwC実態調査2025のレビュー記事で読み解いています。

出回っている「型」の正体

型がないなら、あれだけ流通している方法論は何なのでしょうか。全部まがい物かというと、そうは考えていません。

リーンスタートアップは、作り込む前に小さく出して確かめる段取りを示します。ステージゲートは、節目ごとに立ち止まって検証結果を見直すことを、仕組みとして強制します。どちらも中身をよく見ると、成功への道順というより、思い込みのまま突き進んで大きく壊れる前に立ち止まるための仕掛けです。

つまり、世に「成功の型」として出回っているものの実体は、成功にたどり着く手順ではなく、早めに間違いに気づいて軌道修正するための考え方だと捉えています。新規事業には、誰も困っていない課題に作り込んでしまう、検証より計画づくりに時間を使ってしまうといった、誰もが踏みやすい定番の失敗があります。方法論は、そこに効率よく先回りして当たれるようにしてくれます。中には手順をなぞらせて終わる微妙なものも混ざっていますが、それは脇に置いて構いません。

参考になるのは研究の世界です。研究にも「こうすれば発見できる」という手順はありませんが、仮説を反証可能な形に立てる、棄却する条件を先に決めておく、といった作法は広く共有されています。発見を保証する手順はなくても、間違いに早く気づくための作法なら確立できるわけです。新規事業の方法論も、同じ場所に立っていると捉えると実態に合います。

だから、方法論に「なぞれば成功する手順」を期待すると裏切られます。一方で、「早く気づくための道具」として使えば、期待どおりに働いてくれます。仮説を立ててから検証の道具として使う、という具体的な順番は、新規事業でフレームワークは使えるのかに書きました。

型がないなら、何を考えるか

方法論が肩代わりしてくれるのは、間違いに早く気づくところまでです。何をもって成功とするか、そのために何が成立していなければならないかは、自分たちで考えることになります。

出発点は、成功の定義です。自分たちにとっての成功とは、何がどうなっている状態なのか。ここが曖昧なまま手法や事例を集めても、向かう先が決まりません。

定義できたら、次は因数分解です。その成功が成立するために、1つでも欠けてはならない条件はなにか? この問いで、成功を支える成立条件を洗い出します。

あとは、条件のそれぞれが本当に成立するのかを、ひとつずつ確かめていきます。顧客は本当に困っているのか、対価は払われるのか、届けられる形にできるのか。確かめる順番は、崩れたら企画全体が崩れる、いちばん怪しい条件からです。仮説が間違っていたとき、最も早く気づけます。事業開発の実体は、この検証の連続です。

この進め方は、型をなぞる進め方と違って自社の状況から出発するので、他社と条件が違っても崩れません。検証で分かったことは、そのまま次の判断材料になります。分解と検証のやり方は、ハンドブックの事業開発の進め方すべての根本となるスキルで手順に落としています。

もし成功の型があるならコピーされて広まり失敗は年々減り、成功と挑戦を分けるのはノウハウを知っているか否かになるはずだが、そもそも市場には総量があり全員が成功する世界は成立せず、現実もそうなっていない。だから型はないと置き、成功を定義し、成立条件に分解し、条件を検証し、回し続ける体制をつくるという流れ図

「早く気づく」は、方程式のどこに効くのか

レポートの数字を見ても、原理から考えても、なぞれば成功する手順は当てにできませんでした。取り込むことができるのは、間違いに早く気づくことのほうです。では、なぜ早く気づくことがそれほど大事なのでしょうか。

チームが使える人と時間には限りがあります。間違いに気づかないまま投資を続けている案件は、その限られたリソースを占有し続けます。この状態をできるだけ減らしたいという必要があったからこそ、リーンスタートアップをはじめとする方法論が生まれてきました。

これは、私たちも重視しているリソース効率の話です。ハンドブックで示している事業を生み出す方程式にもつながります。

事業数 = 案件数 × 事業化率
案件数 = 総リソース ÷ 案件リソース

総リソースとはチーム全員の使える時間の合算、案件リソースとは1つの案件が占有する人と時間です。式の後ろ側、事業化率は直接コントロールできません。個々の案件が当たるかどうかは、市場のタイミングや偶然に左右される水物だからです。動かせるのは案件数の側、つまり総リソースを増やすか、案件リソースを減らすかになります。

この式に置くと、「早く気づく」の位置がはっきりします。見込みのない案件であることに早く気付ければ、その案件が将来占有してしまう人と時間が浮きます。間違いに早く気づくとは、方程式でいう案件リソースを減らす考え方なのです。割り算の分母が軽くなるぶん、同じ総リソースで探索できる案件数が増えます。

個々の案件の当たり外れはコントロールできません。ですが、打席の数を増やし、外れに早く気づいて次に移ることを繰り返せば、チームの成果は期待値に収束していきます。案件の価値を期待値の分布の幅で捉えるこの見方は、不確実性とリスクはどう違うのかに書きました。

ただし、早く気づけたからといって、それだけで案件リソースが軽くなるわけではありません。案件リソースを減らす要素は、ほかにもいろいろあります。作業にかかる時間を減らす、手戻りをなくす、申請の差し戻しを減らす、権限移譲を先に済ませておく、使える予算枠をあらかじめ確保しておく。早く気づくことは、案件リソースを構成する一要素に過ぎません。

並べてみると、どれも個人の頑張りで解ける話ではなく体制の話です。

差がついていたのは、体制の側

ここで、先ほどのPwC調査に戻ります。テーマや案件の中身で差がつかなかった一方、体制側の数字には大きな差がついていました。

推進している案件数が4件以上の企業は、成功企業の47%に対して挑戦企業は12%。34.2ポイント差で、この調査の全図表を通じて最大級の開きです。取り組み期間10年以上が37%対18%、年間予算10億円以上が35%対15%と続きます。

PwC実態調査2025の比較図。取り組むテーマ別の分布は成功企業と挑戦企業でほぼ同じだが、推進案件数4件以上(47%対12%)と取り組み期間10年以上(37%対18%)では大きな差がつく

どれも、個々の案件の筋の良さというより、繰り返し打席に立ち続けられるかどうかの数字です。型の痕跡は見つからなかったのに、体制の痕跡ははっきり残っていました。反事実から出発した論理と1,032社のデータが、同じ場所に着地しています。

成功企業の特徴として挙げられているほかの項目も、方程式に置くと読み解けます。プロセスを管理する事務局体制の確立は、申請の差し戻しや書類のやり直しを減らす仕組みと読めますし、新規事業を経営アジェンダに位置づけることは、承認待ちで案件が止まる時間を減らします。権限移譲や予算の確保も同じ側の話です。先ほど並べた、案件リソースを減らす要素の顔ぶれと重なります。調査が集めた特徴群は、その意味で方程式と同じ場所を指しています。

ひとつ添えておくと、これらは成功企業の特徴を集めた相関の指標であって、なぞれば成功する因果のレシピが新しく見つかったわけではありません。体制への投資が成功を生んだのか、成功したから体制が厚くなったのかも、一時点の調査では切り分けられません。それでも、テーマ側は数ポイント、体制側は数十ポイントという桁の違いには、時間の使い先を考え直させるだけの重みがあると考えています。

まとめ

成功の型はありません。ですが、成功しやすい体制ならつくることができます。

なぞれば成功にたどり着ける手順は、原理的にあり得ず、1,032社のデータにも痕跡がありませんでした。その一方で、早めに間違いに気づくための考え方なら、すでにあり、徐々にですが確立されつつあります。

ただし、早く気づくことは万能の答えではありません。事業を生み出す方程式に置けば、あくまで案件リソースを減らす要素のひとつです。方程式には、案件を生み出しやすくする、選別の基準を厳しく保つ、総リソースを増やすといった、ほかの打ち手も並んでいます。

必勝の手順を探す時間は、自分たちの成功を定義し、成立条件を洗い出し、ひとつずつ確かめることに振り向けられます。そして式の全体をどう回し続けるかは、ハンドブックの成功に至るための基本に書きました。そこから読み進めていただくのが、型がない世界での近道だと考えています。

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