本城の目が届く場所で、隣の領地を探す
テーマは経営が置き、既存事業から集められたメンバーが実働を担います。拠点は本社のすぐ近くに置かれ、日常の業務は既存事業の設備や人脈と地続きの環境で進みます。経営の明確な意向で始まった案件であるため、会社としての後ろ盾があり、必要な資源が最初から十分に備わっている体制です。
この配置の面白さは、最初から自社の強みという確かな武器を持って戦える点にあります。一方で、既存事業に近いからこそ、本業と同じ評価基準で測られやすいという難しさも抱えています。潤沢な資源をどう活かし、本業の引力からどう距離を取るかが、この体制における重要な論点になります。
こんなチームです
会議室には事業部の部長も同席し、机の上には自社の既存製品の資料やカタログが分厚く積まれています。日々の話題は「うちの技術を他業界のどこに持っていくか」に集中し、現在の確かな資産をどう転用して新しい価値を生み出すかという議論が、現場と管理職を交えて活発に交わされます。
経営の後ろ盾があるため稟議は通りやすく、検証に使える既存の販路も揃っています。仮説を立てればすぐに既存の顧客基盤を頼りに話を聞きに行けるため、最初の動き出しは驚くほどスムーズに進みます。製品の試作や営業活動に向けた社内の協力も得やすい環境が整っています。
しかし月に一度の報告の場では、空気が少し変わります。経営陣から求められるのは、既存事業と同じフォーマットでの売上見込みです。探索の段階であるにもかかわらず、来期の確実な数字を問われる場面が頻繁に見られ、チームはその説明に多くの時間を費やすことになります。
社内でよく聞こえる言葉
「うちの強みを活かせる領域で考えて」経営陣からよく出る言葉です。自社の資産を活用することが暗黙の前提となっており、新規事業でありながら既存の枠から大きく外れる企画は通りにくいという力学が働いています。経営の意向に沿うことが優先されがちです。
「で、これはいつ売上になるの」報告会議で必ず問われる言葉です。経営側は既存事業と同じモノサシで案件の進捗を測ろうとするため、実数の予測を出せない探索期のチームと期待値のすれ違いが起きています。数字で証明できない時期の苦しさがここにあります。
「事業部のリソースを借りるなら、部長にひと言入れておいて」現場で交わされる言葉です。既存事業の設備や人を借りやすい反面、関係部署への根回しや社内政治に多くの時間を割く必要がある体制の裏側を表しています。動き出す前の調整作業が重くのしかかります。
強み
強みは、経営の後ろ盾があり資源を借りやすいことです。稟議の通りやすさや人の融通は本城の看板があるから実現し、立ち上がりの速さでは他の型と比べても上位に位置します。必要なものがすぐに手に入り、実行に移せる環境が整っているのは大きな利点です。
既存の技術と販路がそのまま武器になる点も、他の型には真似しにくい強みです。販路と技術を最初から持っているため、検証の最初の一歩が「作る」でも「売る」でも踏み出せます。ゼロから資産を築く時間が省かれ、すぐに顧客の反応を確かめられるのは強力です。
つまずきやすいところ
半年後、経営会議で求められるのは既存事業と同じ「今期の売上見込み」です。探索段階の案件に実数の予測を出すことになり、数字が小さいと事業縮小を促され、無理に大きな数字を作ると後で信用を失います。現実と目標のギャップに苦しむ時期が必ず訪れます。
探索のモノサシがないまま母屋のモノサシで測られる。これがこの体制の典型的なつまずき方です。経営と現場の間に悪意があるわけではなく、既存事業と同じ評価基準をそのまま適用してしまう仕組みに根本的な原因があります。構造的な問題に気づくことが重要です。
経営との付き合い方
経営の後ろ盾があるため、立ち上げ初期の予算や人員の確保はスムーズに進みます。経営層が自ら号令をかけているため、関係部署からの協力も得やすく、会社を挙げた取り組みとして注目を集めやすい配置です。経営の期待を追い風にできる恵まれた環境です。
一方で、経営側は既存事業の成功体験から抜け出せず、売上目標というモノサシで新規案件を測ろうとします。ここに摩擦が生まれます。探索期の不確実な案件を、確実な数字で報告しなければならない構造的な歪みが生じ、現場と経営のコミュニケーションが難航します。
顧客と既存事業との付き合い方
既存事業の設備や販路をそのまま借りられるため、既存顧客のすぐ隣にある新しい市場を狙うのに適しています。自分たちの手元にあるシーズを出発点にするため、提供できる価値の形が最初から明確になっており、どこに向かって走るべきか迷いにくいという利点があります。
その反面、既存事業と地続きであるがゆえに、既存の営業部門から売上や利益率といったモノサシで測られてしまいます。少しでも既存事業の邪魔になると判断されれば、社内からの協力が急に得られなくなる脆さもあります。距離が近いから生じる難しさが存在します。
交流会でほかの型と会ったら
交流会で工房型と会ったら、既存の隣で自社の技術から考えるという共通点で話が盛り上がります。経営が置いたか現場が持ち込んだかの違いはありますが、本業の引力にどう抗うかという悩みは深く通じ合います。お互いの調整の工夫を交換する良い機会になるはずです。
新天地型とは、起点も種も立地も全部逆です。最初は「なぜそんな遠くでやるのか」「なぜそんな近くでやるのか」とすれ違いますが、そのすれ違い自体が自社の体制の前提を映し出し、新鮮な気づきを得られます。自分たちに欠けている視点を相手から学べる関係です。
同じ会社の同僚に診断してもらうと、別の型が出ることもあります。互いの見え方の違いを話し合い、体制に対する認識を揃えるきっかけにしてみてください。
次の一手
最初の一手は、探索専用のモノサシを経営と先に合意することです。既存の売上目標で測るのではなく、期待値と不確実性という別の基準で進捗を示す約束を、企画段階の早い時期に経営陣と交わしておきます。評価のルールを最初に変えることが有効な防御策になります。
母屋のモノサシは簡単には変えられませんが、探索用のモノサシを別に置くことはできます。売上の実数を聞かれる前に会話の土台を変えておけば、数字の有無だけで事業の存続が判断される事態を防ぐことができます。適切な評価基準が事業の命綱として機能するはずです。
時間軸や手段によってもやるべきことは変わります。3年以内に白黒をつける短期実証なら1案に賭けず複数案を並列で進め、10年腰を据える長期構想なら途中の判定ラインを置いて期待値の分布が動いていることを前進の証拠にします。外部と組む共創の手段をとる場合でも、外に出せるのは作業と専門知であり、判断と基準づくりは自社に残す必要があります。
成功の型はない。だが、成功しやすい体制はつくれる。
どの型でも効くのは次の3つ。
- 判断基準を人の中から取り出して、チームの言葉にする
- 1案に賭けず、複数案を並列で進める
- 撤退の条件を、始める前に決めておく







