本業から離れた場所で、好奇心の実験を回す
現場の好奇心や発想から始まり、本業のしがらみから遠く離れた領域で密かに進められている実験です。現場発の自由な技術やアイデアを元に、まだ誰も正解を知らない飛び地の市場を試します。少人数で小さく始めているため、誰にも邪魔されずに独自の探求を深められる体制です。
この配置の面白さは、本業の制約が一切ないため、他の型では決して生まれないような飛躍した発想の種が出る点にあります。一方で、本業との接点が薄すぎるがゆえに、経営に対して「なぜうちがやるのか」を説明できず予算がつかないという難しさも抱えた体制です。
こんなチームです
現場の有志が集まり、本業の業務の隙間を縫うようにしてプロジェクトが進められます。発想は自由で、会議では常に「こんなことができたら面白い」「この技術を使えば世界が変わるかもしれない」といった、常識に囚われないスケールの大きなビジョンが語り合われます。
会社からの期待や予算がない分、プレッシャーもなく、純粋な好奇心駆動で小さく実験を繰り返しています。失敗しても誰からも咎められず、コストもほとんどかからないため、何度でも仮説を立てては試すことができる、実験室のような自由で創造的な空間が広がっています。
しかし、いざその成果を会社の公式なプロジェクトに昇格させようとすると、途端に空気が重くなります。経営陣からは「それは本業とどう関係があるのか」という厳しい質問が飛び交い、現場の熱量や面白さが経営の論理に変換できず、会議室には沈黙が落ちてしまうのが日常です。
社内でよく聞こえる言葉
「面白いから、もう少しやらせてください」実験の意義を問われた際に現場から出る言葉です。純粋な探求心と確かなポテンシャルを感じている証拠ですが、ビジネスとしての見通しや定量的な成果を示せないまま、時間だけを延長しようとする危うさも同時に表しています。
「これがうちの本業と、どうつながるの」経営陣から必ず投げかけられる言葉です。既存事業の枠組みから遠く離れた飛び地であるため、会社として投資する大義名分やシナジーが見えにくく、経営側が意思決定を下すための合理的な理由を探しあぐねている様子を示しています。
「予算は付かなくてもいいので、時間だけください」経営への説得を諦めかけた担当者が口にする言葉です。会社の資源に頼らずとも自分たちの熱量だけで走り続けようとする強い意志の表れですが、組織的な支援を得られないまま個人の持ち出しで事業化を目指す限界も暗示しています。
強み
強みは、本業の制約やしがらみがないため、発想の幅が広いことです。既存事業の延長線上からは絶対に出てこないような、非連続なイノベーションの種を生み出すポテンシャルを持っています。全く新しい市場の可能性を、誰よりも早く察知できる配置です。
少人数で小さく始めているため、失敗のコストが小さいことも大きな利点です。会社に大きな損害を与えるリスクがないため、何度でもピボット(方向転換)を繰り返すことができます。仮説が間違っていてもすぐに次の実験に移れる身軽さが、新しい事業の芽を育てます。
つまずきやすいところ
半年後、実験はユニークで面白い結果を出していますが、正式な事業としての予算は一向に付きません。経営会議に持って行っても「で、それが事業になるのか」という問いで議論が止まり、事業化への道筋を示せないまま、担当者の時間と気力だけが徐々に削られていきます。
「何のためか」が経営の言葉にならず予算が付かない。これがこの体制の典型的なつまずき方です。技術やアイデアが劣っているわけではなく、現場の「面白い」という感情的な言葉を、経営陣が投資判断を下せる論理的な言葉に翻訳する仕組みが欠落していることが原因です。
経営との付き合い方
経営陣にとって、この体制は「勝手にやっている趣味」のように見えがちです。既存事業との関連性が薄いため、経営トップの個人的な関心や理解が得られない限り、正式なプロジェクトとして認知されることすら難しく、常に非公式なアンダーグラウンドの活動になりがちです。
この状況を打破するには、面白さを伝えるのを諦め、経営の言葉で語り直すしかありません。案件の数と事業化率、そして期待値という「事業を生み出す方程式」を用いて説明し、単なる実験ではなく「合理的な投資対象」として経営の土俵に乗せるコミュニケーションが必要です。
顧客と既存事業との付き合い方
全くの飛び地であるため、既存の市場や競合に囚われることなく、純粋な技術の可能性(シーズ)から未来の市場を描くことができます。破壊的な技術変革や新しいパラダイムに対して、しがらみなく飛び込んでいけるため、将来の会社の柱になるような大きな果実を狙える立ち位置です。
その反面、最初から存在している顧客が一人もいないため、技術が解決する課題をゼロから見つけ出さなければなりません。「誰が喜ぶのか」というニーズの検証が最も難航する立地であり、素晴らしい技術を持ったまま市場を彷徨い続けるリスクと常に背中合わせの環境です。
交流会でほかの型と会ったら
交流会で新天地型と会ったら、現場発で飛び地に挑むという共通点で話が合います。技術から始めたか顧客から始めたかの違いはありますが、本業から遠く離れた場所で事業を作る孤独感や、経営への説明の難しさといった根深い悩みを共有し、励まし合える戦友になります。
開拓村型とは、経営が置いた既存の隣で顧客の困りごとから始める進め方が真逆です。向こうは「顧客がもう困っている」という明確な課題を持っていますが、こちらにはまだそれがありません。相手の恵まれた環境を羨ましく思う反面、地に足の着いた課題解決のアプローチを学べます。
同じ会社の同僚に診断してもらうと、別の型が出ることもあります。互いの見え方の違いを話し合い、体制に対する認識を揃えるきっかけにしてみてください。
次の一手
最初の一手は、現場の熱量や面白さを、経営の言葉(事業を生み出す方程式・期待値)に翻訳して持っていくことです。「これだけ面白い」ではなく、「この実験を◯件やれば、確率的にこの規模の事業が◯個生まれる期待値がある」という構造で、経営陣に投資の正当性を提示します。
面白さや夢は経営には伝わりません。伝わるのは、それが事業をいくつ生む可能性を持つかという確率と期待値だけです。経営の言葉に翻訳する手間を惜しまず、自分たちの実験を「投資対象」として見せる型を作ることが、現場の自由な実験を守り、予算を引き出す現実的な道です。
時間軸や手段によってもやるべきことは変わります。3年以内に白黒をつける短期実証なら1案に賭けず複数案を並列で進め、10年腰を据える長期構想なら途中の判定ラインを置いて期待値の分布が動いていることを前進の証拠にします。外部と組む共創の手段をとる場合でも、外に出せるのは作業と専門知であり、判断と基準づくりは自社に残す必要があります。
成功の型はない。だが、成功しやすい体制はつくれる。
どの型でも効くのは次の3つ。
- 判断基準を人の中から取り出して、チームの言葉にする
- 1案に賭けず、複数案を並列で進める
- 撤退の条件を、始める前に決めておく







