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Chapter 06事業開発の基礎6分で読めます

合意形成と巻き込み方

森勝 遼太郎
森勝 遼太郎
CPO
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事業開発では、検証と同じくらい関係者との合意形成が重要です。

会議で反対が出なかったのに、予算もリソースも動かない。全員が「良い取り組みですね」と言ったのに、誰も自分の仕事を変えない。デモの反応はいいのに、買ってくれない。これは説得には成功して、行動変容には失敗した状態です。

説得と行動変容を区別するところから、巻き込みの設計は始まります。

説得と行動変容の違い

説得のゴールは相手の同意で、行動変容のゴールは相手の行動です。両者は要求水準がまったく違います。

同意するのはタダです。うなずいても、その人の予算・時間・評価は何も変わらないからです。

一方、行動には必ずコストが伴います。既存部門が営業リストを開く、経営が予算枠を割く、顧客がお金を使ったり稟議をしたり。どれも相手が何かを差し出す行為です。

だから合意形成の設計は「何と言ってもらうか」ではなく「何をしてもらうか」から逆算します。会議の成功条件を「反対が出ないこと」に置いている限り、停滞は防げません。

行動変容は「不快」の天秤で決まる

では、人はどういうときに動くのか。正しさや納得の深さよりも、不快の比較で決まります。

承認にも差し戻しにも、それぞれ不快が伴います。承認すれば、失敗したときに責任を負う不快を背負う。差し戻せば、目の前の相手との軋轢や、再検討を指示する手間という不快を背負う。人はこの天秤にかけて、より不快の大きい側を避けるように動きます。稟議が通るのも止まるのも、多くはこの力学です。

だから、相手に投げかけたまま、相手の厚意や責任感に期待して待つのは巻き込みではありません。設計すべきは、相手の立場から見たときに「やってほしいこと」が、やらないことよりまだマシに見える構図です。承認の不快を下げる材料(リスクの上限・撤退基準)を先に渡す。やらない場合に相手が何を失うかを、相手の言葉で示す。マーケティングが「買わない不便」を、セールスが「導入しない機会損失」を扱うのと同じ構造が、他部署への根回しにもそのまま通じます。

不快の天秤。「やる」側の不快(承認の責任・手間)と「やらない」側の不快(損失・軋轢・関係の軋み)を比べ、相手の選択は不快の軽い側へ流れる。設計のレバーは、やる側を軽くする材料と、やらない側を重くする損失の提示・関係値

もう一つ、時間のかかる正攻法があります。自分のお願いを断ること自体が不快になる関係値を、日頃から築いておくことです。要するに、仲良くなっておく。信頼や貸し借りが積み上がった相手からの依頼は、断る側の天秤に軋みという不快を載せます。テクニックめいて聞こえますが、実際の巻き込みの多くはこの地道な関係値で動いています。依頼の直前に何を見せるかと同じくらい、依頼のない期間にどう付き合うかが効きます。

登場人物はチーム外・社外にも及ぶ

動いてもらう相手は、社内に限りません。すべての根本となるスキルでは、ゴールの成立条件を洗い出す第一手として「この状態に『待った』をかけられるのは誰か」を全員挙げることを勧めました。誰がこの計画を前に進め、誰が止めうるのか。その登場人物に、経営・既存部門・顧客・パートナーが入っているか。

新規事業の検証は、顧客がインタビューに応じ、既存部門がアセットを貸し、パートナーが試作に付き合って初めて回ります。彼らを「あとで説明する相手」ではなく「動く当事者」として最初から計画に書き込みます。役割欄が自チームのメンバーだけで埋まっている計画は、実行段階で必ず外部の壁に当たります。

当事者として書き込むには、それぞれに対しあらかじめ「参加していただく理由」を納得していただき、その人の名前の横に「してもらう行動」と「その人にとっての理由」が書けている状態です。空欄なら空欄と明記し、埋める活動自体を検証計画に入れます。

誰の合意が無いと進まないか

巻き込みは、必要になってから始めると間に合いません。着手前に「誰の合意が無いとこの計画は進まないか」を名指しで洗い出します。

  • 予算・人員を握っている人は誰か
  • 既存事業との調整で拒否権を持つのは誰か
  • 顧客側で、要件チェックや決裁をするのは誰か

名指しできたら、順序と見せ方を設計します。誰に・どの順で・何を見せるか。キーパーソンに情報が届く前に外堀の会議で議題化しない、判断材料が揃う前に意思決定の場に載せない、といった段取りです。

これがいわゆる根回しです。相手が判断に必要な材料を、判断できるタイミングと形で届ける事前の設計です。この設計なしに大人数の会議へ突然議題を出すことのほうが、相手から検討の時間を奪っています。

相手が動かない理由まで言語化する

設計どおりに見せても、動かないことのほうが多いでしょう。

天秤がまだ「動かない」側に傾いているということです。そこで「理解してもらえなかった」「タイミングが悪かった」と他責で解釈していると、永遠に対処できないままです。

動かない理由の整理には、セールスで使われる4つの不という枠組みがそのまま使えます。人が動くのは、次の4つをすべて越えたときです。

  • 不信 — まず、あなたとその計画が信用されている
  • 不要 — 自分(の部門)にとっての必要性がわかっている
  • 不適 — 頼まれた行動が、自分がやるべきこととして適切だと思えている
  • 不急 — 今やる理由がわかっている

手前から順に解くのが原則です。信用されていない相手に必要性を説いても届きませんし、必要性を感じていない相手に「今期中に」と迫っても、急かされている印象しか残りません。

先ほどの天秤に載っている不快も、この4つで整理できます。

利害は、主に不要と不適に現れます。この事業が進むと、相手の部門の数字・人員・立場がどうなるか。既存顧客との関係を新規事業の検証に使えば、既存部門がリスクを負います。「必要」どころか損になっているなら、要るのは追加の説明ではなく、リスクの分担やゴールの共有といった利害の設計です。

感情は、主に不信に現れます。自分の頭越しに決まった、検討に呼ばれなかった、という経緯は、内容への評価と無関係に人を止めます。この場合の打ち手は資料の改善ではなく、相手を検討の当事者に入れ直すことです。

どの不が残っているのかを言語化してから、打ち手を選びます。「説明が下手だから通らない」という総括は、原因を個人の技量に帰して、本当の変数を見えなくします。通らないのは多くの場合、動かない理由を扱う仕組みが計画に無いからです。

まとめ

検証と同じくらい真剣に、合意形成も設計しないと事業開発は進みません。

ゴールに達するために必要な協力を洗い出し、動いてもらうための成立条件(4つの不が越えられているか)に分解し、計画に落とす。前章すべての根本となるスキルの手順が、ここでもそのまま使えます。

一方で、検証が回り、巻き込みも効いて、順調に進んでいるように見えても起きる問題があります。それがゾンビ化です。次章ゾンビ化とは何かで扱います。

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