CCF(Concept Company Fit / 自社適合検証)でコンセプトの仮説は固まりました。次は顧客に会いに行く段になります。
その前に、チームの中で「課題」という言葉が指すものがそろっているかを確かめておきます。
ある日の報告会で、保全部門向けの案件について「顧客の課題はこれです」と担当者が切り出したとします。しかし、よく聞くと参加しているメンバーによって指しているものがバラバラです。
ひとりは「現場の点検記録を紙から台帳へ転記するのが手間なこと」を課題として話します。別の担当者は「タブレットがほしいと言われた」という顧客の要望を挙げます。開発担当は「入力画面を早く作ること」という自分たちの作業を課題と呼んでいます。
言葉の定義がないまま進むと、同じ会議室にいても話がかみ合わないまま検証が進みます。
定義がずれたまま実証ステージに入ると、顧客の要望をそのまま作るか、作りたいものの裏付けだけを集めるかのどちらかに流れます。その結果、貴重な案件リソースをロックしたままになります。
本章では、「理想・問題・課題・打ち手」の4つの言葉を切り分けます。そのうえで、これから向かう実証の3ステージが、それぞれ何を確定させるのかを示します。
理想・問題・課題・打ち手を切り分ける
| 言葉 | 何を書くか | 分岐するか |
|---|---|---|
| 理想の状態 | 目的と制約を織り込んだ、ありたい状態 | 誰の、どの時間軸の理想かで分岐する |
| 現状の問題 | 理想から見て、いま観測できる不都合 | 1つとは限らず、分岐する |
| 課題 | 理想と問題のギャップ | 理想と問題を決めれば自動的に決まる |
| 打ち手 | 課題を埋める手段 | 1つの課題に対して何通りもあり、分岐する |
理想の状態は、すべての根本となるスキルで扱った「状態で書く」と同じ書き方をします。予算や期間、「通院は週1まで」のような制約も一緒に書きます。
制約を入れないと、どの打ち手でも理想にかなってしまい、打ち手を選べません。例えば「英語を話せるようになる」という目標だけでは、10年間の海外留学も正解になります。「半年間で」「働きながら」という制約があって初めて、無数にある手段を現実的な範囲に絞り込めます。
現状の問題は、その理想から見たときの不都合です。問題は1つとは限りません。
そして課題とは、理想と問題のギャップそのものを指します。課題は単独で議論しても決まらず、理想をどこに定め、何を問題とするかで決まるものだと考えています。
理想と問題が決まれば、課題は差分として出てきます。課題から先に決めると、理想と問題を検証しないまま使うことになります。
打ち手は、課題を埋めるための手段です。1つの課題に打ち手はいくつもあります。
問題と問題意識は違う
例えば、「オフィスに緑が足りない」という言葉があります。一見すると問題のように聞こえますが、これは問題意識です。
問題とは、「午後になると集中が切れ、仕事の出来が上がらない」のように、理想から見た不都合のことです。緑を置くのは、その問題に対する打ち手の1つにすぎません。照明を明るくする、会議の詰め込みをやめる、席の配置を変えるなど、他にも打ち手は存在します。
問題意識は、打ち手を中に含んだまま語られます。そのまま進むと、打ち手が最初から1つに固定されます。
あるオフィスで、問題意識に従って観葉植物を並べたものの、午後の集中は一向に戻りませんでした。本当の不都合は、午後に詰め込まれた会議のスケジュールにあったためです。他の打ち手と比べないまま動くと、こうした空振りが起きます。
問題意識が生まれやすいのには理由があります。人は現状を深く観察して言語化するよりも先に、解決の絵が頭に浮かぶからです。特に、自社の技術や既存の資産を活用しようとするほど、その資産を使った解決策が最初から頭にあります。
事業開発の現場でよく耳にする「現場のDXが遅れている」という言葉も、すでにデジタル化という打ち手を含んだ問題意識です。
この状態のままヒアリングを行うと、「緑があればいいと思いませんか」「DXを進めたくありませんか」という、仮説にうなずいてもらうための質問になります。それでは都合の良い声だけが集まり、不確実性は下がりません。
「それが片付いたら、何が良くなるのか?」
この問いをかけることで、打ち手を含んだ問題意識から、本当の問題へ一段戻れます。そこから改めて、他にもっと良い打ち手がないかを探っていきます。
理想と問題の定め方で、課題は変わる
課題が単独では決まらないことを、身近な例で見てみます。同じ「腰が痛い」という状況でも、理想をどこに定めるかで課題はまったく違うものに入れ替わります。
- 理想A「今週の仕事を痛みなく乗り切る」
- 問題「腰が痛い」
- 課題「いまの痛みを抑える」
- 打ち手「湿布」「鎮痛剤」
- 課題「いまの痛みを抑える」
- 問題「腰が痛い」
- 理想B「痛みの出ない働き方に戻す(制約:通院は週1まで)」
- 問題①「湿布を貼っても翌日にはまた痛む」
- 課題「再発を止める」
- 打ち手「受診」「整体」「整骨」「漢方」
- 課題「再発を止める」
- 問題②「一日中座りっぱなし」
- 課題「座り続ける時間を減らす」
- 打ち手「立ち机」「椅子を替える」「1時間ごとに席を立つ」
- 課題「座り続ける時間を減らす」
- 問題①「湿布を貼っても翌日にはまた痛む」
湿布は、理想Aから見れば正しい打ち手です。ですが、理想Bから見ると的外れなものになります。打ち手の良しあしは、その上の段にある理想と問題の定め方で決まります。
どちらの理想が正しいかは、本人の目的と制約で決まります。作り手の好みでは決まりません。今週を乗り切りたい人に通院を勧めても動きません。逆に、働き方を戻したい人に湿布を渡し続けても、痛みはまた戻ります。
どの理想と問題が本人にとって本当かは、本人に確かめるしかありません。事業ではそれが次の CPF の仕事になります。
要望は打ち手の1つにすぎない
もうひとつ、よく知られたエレベーターの話があります。
オフィスビルで「エレベーターが遅い」と苦情が続いている状況です。ここからの打ち手は分岐します。高速なものに替える、台数を増やす、運行の制御を見直す、乗り場に鏡を置く、などです。
乗り場に鏡を置いたところ苦情が止まった、という結末が広く知られています。ただし、ここで解けたのは「待つあいだのいら立ち」であって「待ち時間」ではありません。もし顧客の理想が「待たずに上下階へ移れる」ことなら、課題はそのまま残っています。どの問題を解いたのかを取り違えると、苦情が消えたことを課題の解決と読んでしまいます。
顧客の「〜がほしい」「〜してほしい」という声は、顧客自身が考えた打ち手の提案です。課題そのものではありません。
要望は顧客ごとに違う打ち手です。全部を聞き入れれば機能が際限なく増え続け、1社に合わせれば他社ではまったく使えないものになります。
要望を聞いたら、「なぜそれがほしいのか」を繰り返して、その下にある問題と理想まで戻ります。
例えば「データをCSVで出したい」という要望があったとします。なぜかと聞くと「上司に週次で報告するから」と返ってきます。さらになぜかと聞くと「点検の遅れを会議で説明できずに困っている」という問題が見えてきます。発言は氷山の一角であり、その下に要因の連なりがあります。
詳しい掘り方はPSF(Problem Solution Fit / 解決策検証)で扱います。
「この要望は、どの問題に対する打ち手か?」
要望を受け取ったら、作る前にこの問いを使い、問題まで戻ります。
解決策とは、仮に決めた打ち手
打ち手候補やアプローチ仮説、解決案といった言葉は、まだ分岐の中にある打ち手を指します。これに対して解決策(ソリューション)は、検証を通して仮に決めた打ち手を指します。
「仮に」と言えるのは、後のステージで崩れれば再び分岐へ戻すためです。事業開発の始め方(テーマ設定・アイデア創出・コンセプト化)で関係者ごとに書き出した「解決策」も、この段階ではまだ数ある打ち手候補の1つにすぎません。
仮に決めるからこそ、顧客に試せます。もし仮説が外れていたら、分岐を一段戻って別の打ち手候補を選び直します。
PSF(解決策検証)の「解決策」はこの意味です。
実証の3ステージが確定させるもの
すべての根本となるスキルで扱った保全部門の例(点検記録の紙運用)を各ステージの検証に当てはめます。
| ステージ | 確定させるもの | 保全部門の例で確かめること |
|---|---|---|
| CPF | 顧客にとっての理想と問題を確かめ、課題までの分岐を確定させる | 転記の手戻りが複数の現場で再現するか、当日共有を本当に求めているかを確かめる |
| PSF | 打ち手の分岐から、顧客が依存する枝を選んで解決策にする | タブレット・様式の見直し・写真共有のどれに依存が生まれるかを選ぶ |
| SPF | 選んだ解決策を、提供できる形で実現できるかを詰める | 現場の端末や通信環境で提供できるかを詰める |
顧客の反応が思わしくないとき、どの段の仮説が崩れたかを切り分けられます。事業開発の全体像にあるように、解決策だけならPSFから、理想や問題の定め方が崩れたらCPFから戻ります。
まずは、顧客にとっての理想と問題を確かめに、CPF(Customer Problem Fit / 課題検証)へ進みます。