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Chapter 13事業開発のプロセス約13分で読めます

CPF(Customer Problem Fit / 課題検証)

森勝 遼太郎
森勝 遼太郎
CPO
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プロンプト全文

机上で練り上げた事業仮説が本当に社会に必要とされているのか、初めて実際の顧客に確かめるステージです。
市場のレポートや会議室での議論を抜け出し、期待と不安の中で最初のインタビューへ向かいます。

数週間の活動を終えると、「10社に聞いて、全社が深く共感してくれました」という前向きな報告がよく見られます。
熱量のある声を聞くとすぐに解決策を作り始めたくなりますが、共感してくれたという事実だけでは次のステージへ進める証拠にはなりません。

人は対面で聞かれると、無意識に相手の期待に応え、同調するものです。
わざわざ時間を取って話を聞きに来た相手に対して、面と向かって「そんな課題はない」とは言いづらい心理が働きます。
自分たちの仮説は、相手の親切な同調を引き出しているだけではないか?
この問いを持たずに現場の声を集めても、見たい現実だけを切り取ることになります。
本章では、課題が存在する証拠をどう集め、どう判断するのか、検証の進め方を整理します。

このステージの問いとゴール

メインの問いは、「その課題を顧客は持っていて、対価を払ってでも解決したいものか?」です。
ゴールは「課題実在性と対価支払い意思がインタビューで再現確認できる」ことです。

ひとつ目の鍵は「再現」です。
1社が強烈に困っていたとしても、それが市場の構造的な問題であるとは限りません。
たまたまその企業のシステムが古いだけかもしれませんし、担当者の個人的なスキルの問題かもしれません。
つながりのない複数の顧客から同じ課題が繰り返し語られて初めて、個人の特殊な事情ではなく再現性のある証拠になります。

もうひとつは「対価」です。
課題への共感と、お金を払う意思はまったくの別物です。
共感は無料で引き出せますが、対価を払う意思は具体的な料金の話をして初めて確かめられます。
どんなに「困っている」と言っていても、いざお金を払うとなると足踏みするケースはよく起こります。

CPFで確かめるのは、顧客にとっての理想と問題です。
課題はその2つを確かめれば決まるため、どの打ち手で埋めるかを選ぶのは次のPSFで扱います。
この切り分けについては課題・問題・解決策の違いの章へ譲ります。

このステージは、課題があることを証明しに行く場というより、無いなら早く分かる場として扱います。
支持を集めるインタビューだけを繰り返していても、落とす判断はいつまでも来ません。

支持を集めるインタビューだけでは好意的な声が積み上がるだけで判断できないまま案件リソースをロックし続けるのに対し、反証のインタビューを先に組むと早い時点で不成立と判断して案件リソースを次の案件へ空けられることを示す時間軸の図

あえて反証のためのインタビューを先に組み、成り立たない案件を早めに落とすことで、存在しない課題にリソースを割く期間を短くできます。
具体的な手続きである反証の子論点や完了条件の置き方は、後の節で扱います。

成立条件と達成条件

CPFで検証する論点は大きく4つあります。
すべての根本となるスキルの章で扱った「保全部門は点検記録の紙運用に困っている」という仮説を例に、成立条件と達成条件の表を作ります。
達成条件には明確な判定ラインを置きます。

成立条件達成条件と判定ライン
ターゲット顧客の定義保全の現場担当者と決裁者が区別でき、誰の答えを証拠としてよいか特定できている
課題の深刻さ10人中3人以上が、手戻りや事故の実害など、代替手段では解決できないほど深刻で優先度が高いと語る
対価を払う意思月額10万円という具体的な料金イメージを出してもNOが出ず、内諾に至る
顧客に届く経路インタビュー相手探しを通じて、ターゲット層に効率的にリーチできるチャネルの見立てが立つ

課題の深刻さの判定ラインとして、同一課題が3人以上から再現するかどうかを見ます。
その際、発生頻度やタイミングに加えて、困る理由が「観測できる業務の不都合」として説明できるか、放置したときの不利益が言語化されるかも確認します。
さらに、「すでに最新の端末がある現場にとっては問題でない」といったように、理想の定め方が違う相手や問題が起きていない相手がどこにいるか、境界が言えることも条件になります。

決裁権のない若手担当者の「困っています」を証拠に数える事故はよく起きるため、ターゲットの定義とセットで判定します。

対価を払う意思は、具体的な料金イメージを出してNOが出ない、あるいは内諾に至ることが目安です。
「いくらなら払いますか」とオープンに聞くと、今の予算枠に収まる安い金額しか返ってきません。
この困りごとを月10万円で片付けられるとしたら、次回の予算会議にかけますか?

まだ解決策を見せずに金額を出せるのは、比べる相手が「いまその課題に払っているコスト」だからです。
転記にかかっている人の時間やミスによる手戻りの費用、外注費を先に聞いておけば、提示する金額に根拠が生まれます。
「それなら今のExcelで我慢します」という反応が返ってくるなら、お金を払ってでも解決したい深刻な課題ではありません。

インタビューの進め方

インタビューの設計はすでにCCFの段階で済ませておきます。
CPFでは、その設計を実際の顧客に持ち込み、答えを積み重ね、仮説を修正しながら反復します。
10件のインタビューを漫然と消化せず、3件実施するごとに結果を振り返り、修正した仮説で繰り返すことで解像度が上がっていきます。
たとえば最初は「紙の転記そのもの」が課題だと考えていても、数件こなすうちに「字が読めず確認の電話をする手戻り」の方が深刻だと気づくような形です。
解像度が上がれば、次に聞くべき質問も変わり、ターゲットの輪郭もはっきりしていきます。

ここで最も多い脱線は、解決策の売り込みです。
顧客がうまく言語化できず沈黙が続いたとき、つい画面モックアップを見せて意見を聞く場面は少なくありません。
しかし解決策を見せると、相手の思考が「自分がどう困っているか」から「このツールはどう使えるか」に切り替わり、アイデアへの感想だけが返ってきます。

顧客の側から「タブレットがほしい」「CSVで出せるようにしてほしい」といった要望が出ることも多くあります。
要望は顧客が考えた打ち手の提案であり、記録はしても課題の証拠には数えません。
「なぜそれがほしいのか」を重ねて、「CSVで出したい」の裏にある「上司に週次で報告する」「点検の遅れを会議で説明できないと困る」といった問題と理想まで戻ります。

聞き手の側の「現場のDXが遅れている」といった問題意識で質問を組むと、打ち手を含んだまま聞くことになり、同意を集めるだけで終わります。
問いは、相手の業務で起きた過去の事実や、何が起きて何に困ったかに向けます。

証拠は相手の言葉ではなく、行動で取ります。
「あったら絶対に使いたい」という言葉は証拠になりません。
相手は私たちのために時間や労力を割いてくれたか?
自分の時間を割いて再度詳細なヒアリングに付き合ってくれる、社内のキーマンを紹介してくれる、提示した料金イメージで稟議の相談を始めるなど、行動の事実だけが仮説を前進させます。
行動を引き出せないなら、それはまだ本当の課題に触れていないサインです。

誰に聞いたかで、答えは決まる

インタビューの結論は、相手が何を答えたかだけでなく、誰に聞いたかでも決まります。
会う相手の選び方が偏っていれば、何社聞いても同じ答えが返ってきて、偏りまで再現します。
偏りが入り込む入口は、大きく3つあります。

まず、会いやすい人から会うことです。
知人の紹介や既存顧客は好意的で、困りごとを探しに行けば困っている人から先に見つかります。
しかし、見つかりやすさと市場における割合の多さは別物です。
会いやすい人にだけ話を聞いていると、特定の限られた層の声を市場全体の声だと錯覚します。

次に、残っている人にしか会えない生存者バイアスです。
点検記録の紙運用に困っている保全部門を探すと、会えるのはいまも紙で運用を続けている現場だけになります。
すでにタブレットやExcelへ移行した現場は候補に挙がってこないため、同じ課題を別の手段で片付けた人がどれだけいるかは分かりません。

最後は、聞き手が自分の仮説を聞き取る確証バイアスです。
仮説を持った人間が話を聞くと、仮説を支持する発言ほど記憶に残りやすくなります。
「紙は大変ですね」は書き留められ、「慣れていますけどね」は流れていくといった偏りは、聞き手の誠実さとは関係なく起こります。
録音を聞き直すと、都合のいい部分だけを拾い上げていることがあります。

保全部門の現場20件の母集団のうち、会いやすい相手だけを切り取ると5件中5件が困っていて課題は大きいと言えてしまうが、反証の側まで見ると移行済みの現場の多くで困りごとが消えており、代替手段で片付く層がいると分かることを示す図

偏りは手続きで防ぐ

どの偏りも、気をつけていれば防げる種類のものではありません。
私たちは、偏りへの対策は心構えではなく、検証を始める前の手続きで打つものだと考えています。
手続きとは、検証の前に次の項目を順に書き出しておくことです。

  • 論点と仮説: 何を確かめるのか。
  • 完了条件: 何人がどう答えたら成立とするか、何が観測されたら不成立とするか。不成立側も先に決めておきます。
  • 検証方法とその妥当性: 誰に、何人に、どう聞くか。「週に何時間、転記していますか」という本人の感覚だけでなく、紙の台帳や転記ミスの報告記録と照らし合わせるなど、論点に答えが出る妥当性を担保します。
  • 結果と確度: 支持されたか、されなかったか。どれくらい信じてよいか(高・中・低)。
  • 前提: 確かめてはいないが、結論が寄りかかっていること。
  • 見落とし: 検証の途中で気づいた、はじめに洗い出していなかった論点。検証しないと判断したものも理由とともに残します。

もう一つ打てる手は、反証を子論点として立てることです。
保全部門の例なら、「困っている」を確かめる論点の下に、「既存の代替手段では解消できないか」という子論点を立てます。
すでにタブレットやExcelへ移行した現場を探して会いに行き、困りごとが消えたかを聞きに行きます。

完了条件もここで先に決めておきます。
移行済みの現場の半数以上で手戻りが残っているなら代替手段では足りない、残っていなければ課題は代替手段で片付く、とします。

ウェイソンの4枚カード問題を保全部門に置き換えた図。仮説「紙で運用している現場なら転記の手戻りに困っている」を確かめるのに、直感では『紙で運用』と『困っている』を選んで支持を集めるだけになるが、反証になりうる『紙で運用』と『困っていない』を選べば仮説を確かめられる

反証の子論点が支持されれば元の論点は強くなり、支持されなければ対価を払うほどではない見込みが高まります。
どちらに転んでも判断は前に進みます。
一方で、反証の論点を立てないチームには、支持の証拠しか集まりません。会う相手が最初から支持側に寄っているためです。

この仮説が間違っているとしたら、誰に会えばそれが分かるか?
これは、すべての根本となるスキルで触れた反事実思考を、会う相手の選び方にまで広げる問いです。

届く経路はインタビュー相手探しで分かる

4つ目の論点である「顧客に届く経路」は、インタビュー相手を探す過程そのものが実地確認になります。
知人の紹介でしか会えないのか、特定のコミュニティに属しているのか、あるいは広告で広く届く層なのか。
相手に会いに行く苦労の中に、将来のチャネルの手がかりが埋まっています。

何十通もメールを送ってやっと1件の面談が組めるようなら、将来の営業コストは大きくなります。
逆に、発信力のある1人から芋づる式に紹介が広がるなら、強力な経路になります。
会えなかった相手や断られた相手も記録に残しておけば、誰に届かなかったかというそのままの経路情報になります。

インタビュー相手の見つけ方(紹介・コミュニティ・広告・謝礼付きの仲介)ごとに将来の経路の手がかりになるかを並べ、仲介で会えたことは経路の証拠にならず、経路は相手に直接過去の事実を聞いて確かめることを示す表

相手探しの時間を大きく縮められるため、謝礼付きの仲介サービスを使ってもかまいません。
ただし、登録している属性の人に偏るうえ、謝礼目当てで期待に合わせた答えを返す歪みも生まれます。
仲介で会えたことは経路の証拠にはならないため、経路の論点だけは別の方法で確かめる必要があります。

経路は、インタビュー相手に直接聞くこともできます。
ふだん仕事の情報をどこから得ているか、いま使っているツールやサービスを誰が見つけ、どこで比べ、誰の承認で購買が決まったか。
意見ではなく過去の事実を聞くことで、購買までの道筋が見えてきます。
課題を聞く場とは分けて、経路だけを聞くマーケティング専用のインタビューを組む手もあります。

進捗は件数ではなく不確実性の低下で測る

インタビューを何件やったかは活動量であって、検証の進捗ではありません。
進捗は、課題実在性と支払い意思について、不確実性がどれだけ下がったかで測ります。
10件の曖昧な会話をこなすより、論点に明確な答えを出す3件の方が前進です。

たとえば5社に聞いて誰も深刻に困っていないなら、悲観シナリオの確からしさが高まります。
会えた相手が予算を持たない若手ばかりだった場合も同様です。
検証結果が出るたびに、案件が持つ期待値と不確実性の分布を更新し、ゾンビ化とは何かで扱った撤退基準に照らし合わせます。
活動はしているのに分布がまったく動いていないなら、それはゾンビ化のサインです。

支持された結果でも確度が中・低のものは、次の検証で補う対象として残します。
ここでも、事業開発の進め方で触れたQuick & Dirtyの原則が使えます。
崩してよいのは検証の精度であって、検証項目である成立条件は崩さないようにします。
厳密な統計調査をする必要はありませんが、「対価の意思を確認する」という項目を丸ごと飛ばすと、判断できなくなります。

通過の目安と出口

このステージを通過する目安は、次のPSFに進み、プロトタイプへの投資を無駄にしない状態を作ることです。
以下の目安を満たしているか確認します。

  • ターゲット顧客が、現場の担当者と決裁者を分けて特定できている
  • 同じ課題が、つながりのない3人以上から自分の言葉で語られている
  • 代替手段では解消できないことを、反証の側からも確かめている
  • 具体的な料金イメージを出してNOが出ず、内諾がある
  • インタビュー相手を探した経緯から、届く経路の見立てが言える

CPFで案件が終わる典型的な出口は「課題が存在しない」です。
また、全ステージ共通の理由での撤退も起こりえます。
検証を続けるためのリソースが確保できない場合や、規制や競合の動きといった外部環境変化によって前提が崩れた場合です。
存在しない課題に案件リソースを割き続けるのを防げるため、撤退も勝ちです。

もし、検証の中で顧客セグメントを大きく変える場合は、同じ案件の続きとして引き継ぎません。
コンセプトの関係者が変わることは、新しい案件として入口からやり直すピボットです。
事業開発の閉じ方(撤退・ピボット・移譲)で扱う作法に沿って案件を閉じ、新しくスタートさせます。

よくある落とし穴

このステージで陥りやすい落とし穴をまとめます。

  • 会えた相手だけで市場を語る:1社の熱狂や紹介でつながった数社の声は、市場全体の声ではありません。会えなかった相手と、別の手段で片付けた相手の側を確かめるまで結論は保留します。
  • 好意的な反応を証拠として数える:「便利そうですね」という言葉は証拠になりません。証拠は相手の行動で判定します。
  • 要望を課題として数える:「〜がほしい」は顧客が考えた打ち手の1つです。証拠として数えるのは、その下にある問題が複数の顧客で再現しているかどうかです。
  • 誘導質問で仮説を確認しに行く:正面から聞けば同調を引き出すため、過去の具体的な行動を聞き出すようにします。
  • 対価の話を最後まで避ける:関係を壊したくないという心理から料金の話は先送りされがちですが、先送りした分だけ不確実性が次のステージに持ち越されます。

確かめた理想と問題に対してどの打ち手で埋めるかを選び、解決策を顧客に体験してもらうのが次のステージです。
PSF(Problem Solution Fit / 解決策検証)へ進みます。

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